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かれこれ数年前のこと。 偶然みつけた、YFのイベント『スノーシュー in 白馬』。 『スノーシューをはいて、カモシカやウサギに会いに行こう』 すばらしい、と思った。 四つ足の子たちに会いたかった。 あいたくて、あいたくて、あいたかった。 そのときは、会えなかった。でも、無数の足跡を見た。 雪のテーブルセットを作り、お茶をした。楽しかった。 スノーシューで林の中を歩き、ゲレンデの外に出た。 雪混じりの曇り空で、四つ足の子たちもいなかったけれど、 ココロがわらった。 もっと、奥へ行ってみたいと思った。 「ここから先は、雪山登山」と引き返したポイントの、その先へ。 おやつと水筒装備から、テント泊の装備へ。 ・・・時は流れた。 山を歩く。岩を登る。マイテントを張る。 もっと、彼らに会いたいと思った。 山を歩き、彼らの世界を垣間見せてほしくなった。 ・・・アシニボインに来た。 ヘリを降り、テント場をめざして歩きはじめる。 最初の坂を下ったところで、草が低くなり、視界がぱっと開ける。 マウント・アシニボインの雄美な姿に圧倒される。 コバルトブルーの湖面(メイゴック・レイク)は 日の光を映して輝き、ヤナギランが湖岸に咲く。 緯度も標高も高い世界の、短い分凝縮された夏が、盛りを迎えていた。 |
キャンプ場に向かう道 | レイク・メイゴック | しばしの我が家 |
花や湖をながめながら気持ちよく歩いていると、 20分ほどでテント場に着いた。 点在しているキャンプサイトを回り、とある場所に決める。 朝、テントを開けると、正面にマウント・アシニボインが見える位置だ。 水場にも近く、プライベートリビングのような隔離感もある。 なかなかいい。 そばには丸太がいくつもあり、テーブルセットもできた。 この日の夕食はスモークサーモンのパスタ。 ワインやチーズも丸太のテーブルに載せる。 この上なく素晴らしい食卓が整い、のんびりとワインを飲んでいると、 あっ、という息をのむような瀬戸さんの声が聞こえた。 わたしの後ろの方を指さしている。 振り向くと、シカがいた。 大きさは、大きめのシカサイズ(体長1〜1.5m)。 近くの小川に、水を飲みにきたのだろう。 時間も夕暮れ時で、ちょうどそんな頃合だ。 一定の距離を確保すると、立ち止まってこっちをじっと見ている。 その仕草がいかにもシカらしく、うれしくなる。 数秒間、シャッターを切りながら、彼をながめる。 アシニボインで出会った、最初の四つ足の子だ。 |
シンプルだが美味しい食事 | 最初に出会った四足の子 | ほぼ毎日こんな天気 |
翌日から、日帰りトレッキングに出かける。 朝からよく晴れ、湿度も低く快適だ。 おまけに日没は22時ごろ。 1日が長く、2日分も3日分も一度に楽しめる。 そして、どこを見ても花、花、花。 ウメバチソウ、わすれなぐさ、ツガザクラ、 リンドウ、アネモネの穂・・・(と教えてもらう) 止まってパチリ。しゃがんでパチリ。 見渡すかぎりの広さで、みごとさで、花も山も湖も広がっている。 空は限りなく澄んでいて、晴れた冬の日のようだ。 風で、雲の群れが流されてくる。 上空3,000mの雲なのだろう、 ピークまで登るとすぐそばに雲が見えた。 下にいるときには、遥か上に浮かんでいたのに。 自然のふところの中へ、また一歩近づいたように感じる瞬間だ。 |
ジリスがいた。 体長20cm。 毛はグレーがかったような茶色。 プレーリードックのような格好で、 石や小高い土のうえに立っているのは、見張り役か。 警戒しているときや興味津々のとき、立ち上がる動物たちがいる。 もっとよく、においを嗅ぐための仕草なのだそうだ。 彼らもそうなのだろうか。 双眼鏡でのぞきながら、しずかに近づく。 ひざ立ちになり、最後は、匍匐(ほふく)前進なみに ズリズリと進みながら、じっとのぞく。 双眼鏡のなかのジリスは、キョロキョロとあたりを見回している。 喉もとの毛が、意外とフサフサとしている。 色もボリュームも、ライオンのたてがみのようだ。 ひげの生え方も、ネコのように規則ただしい。 そして、パチパチとまばたきをする。 しっぽを上下に動かす。 双眼鏡のなかで起きているひとコマひとコマが、限りなくいとおしい。 ああ、とっておきのヒミツを見せてもらったような、神秘的な世界だ。 何時間でも、こうして時間を共有していたい。 |
見張り役? | 素早い動きで穴に逃げ込む | 逃げないでね |
あっちにも | こっちにも | 足跡発見 |
花を観察しつつ、動物たちの姿を追いつつ、毎日歩く。 ある朝、テント場を離れてすぐ、エルクがいた。 最初、シカだと思った。 帰国して写真を現像してみるまで、自分はシカに会ったのだと思っていた。 でも、できあがった写真に納まっていたのは・・・ 木陰からこっちを見つめるこの顔は、まえに写真で見たエルクそのもの。 よく見ると、シカというより、カリブーやムースのような角をしている。 1〜2歳の若いオスだとしたら、角の大きさもこれくらいかもしれない。 先がまだ丸いところが、これから更に伸びそうな気配を感じさせる。 角の形や大きさから総合的に判断して(と、まとめてみる)、 自分はエルクに会ったのではないだろうか。 初日にテント場で見た子は・・・シカ、にしておこう。 体格のわりに、角は小さかった。 |
こうして毎日、ガレ場を歩き、 ときにナイフリッジを通過して、「その先」を目指した。 ナブ・ピークやウィンディー・リッジで、リッジの向こう側を望む。 「リッジの向こう側が見えた」 デジャヴーだが、リッジの向こう側の景色には、いつも魅了される。 まだ知らない世界を象徴しているようで、 無限の広がり、ふところの深さを感じる。 |
下山中、シマリスがいた。 ジリスよりもひとまわり小さく、背中にタテジマがはしっている。 敏捷で、草のなかを見え隠れする動きに、なかなか目がついていかない。 もどかしいが、近づきすぎれば、逃げてしまう。 そこで、待つことにした。 カメラを構えて、わたしも草のなかに立てひざになる。 腹ばいになりたいところだが、 草の丈があるので、それでは写真が撮れない。 シマリスはちょこちょこと駆けながら、草を食んでいる。 止まった瞬間にシャッターを切っていたら、 彼はだんだん近づいてきた。 「食べ物でも敵でもないイキモノ」になれたのだろうか。 うれしい。 草が途切れた場所に出た瞬間、彼はこっちを向いた。 その距離、わずか2mほど。 「それなあに」 きょとんとカメラを見ている。 目が、合う。 ココロが、ふるえる。 シャッターを切った瞬間、にげてしまうかも。 まえに、初めてカメラを見た子犬が、ひどくおびえたことがある。 大丈夫だよ、そう念じつつシャッターを切る。 数秒間、こっちを見ていたあと、彼はパッと草のなかにもどってしまった。 なにごともなかったかのように、また、草を食む。 そのつれなさが、また、いい。 |
目が合った | つれない仕草 | そぉ〜っと |
シェルターに着いた。 ここには、ウサギとカエルがいた。 最初にでてきたのは、カエル。 松の樹皮とおなじ模様で、のそのそと歩いている。 やがて、松の幹にへばりついた。 正面から写真を撮ったら、オートフラッシュがでてしまった。 時、すでに遅し。 「ボク、ソレキライ」 プイっと向きを変えて行ってしまう。 ああ、ごめん・・・。 ウサギ。 手足の先はまっしろで、背中はグレー。 耳にも模様が入っている。 意外と耳が大きく、立っている。 草を食みつつ、シェルターのそばを行ったりきたりしている。 気温もさがってきて、わたしたちはダウンを着ながら外でお茶をしている。 「こっちにいるよ」 教えてもらって、急いで見に行く。 ウサギは、トレイルのすぐ脇にいた。 トレイルに腹ばいになり、ウサギ目線になる。 動物たちは、暖色を警戒するという。 わたしが着ているのは、真っ赤なダウン。 しまった。 気にしないでくれるといいなと思いながら、じりじりと近づく。 「ん?」 同じ目線でヒト族を見たのは、はじめてだったのかもしれない。 きょとんとした顔と、目が合う。 一瞬ののち、彼女も、やがてはじかれたように向こうへ行ってしまった。 |
驚かしてごめん |
無人のシェルター | 白い手足 |
じっと身を潜めるキジ |
翌日、ひたすら下山道を下る。 標高が下がるにつれて気温は上がり、快晴の日差しが痛いくらいに熱い。 森の中に入り、周囲の木々に阻まれて、眺望もなくなってくる。 車を停めた駐車場を目指して、ただ黙々と歩く。 起伏もなくなり、そろそろ駐車場に着こうかというところで、 ガサゴソと動く音を聞いた。 左手の斜面で、何かが動いている。・・・キジだ。 おそらく、トレイルのそばまで出ていたところへ私たちが通りかかり、 慌てて木の陰へ移動したのだろう。 保護色の木の陰でじっとしたまま動かず、 目だけでこっちを見たまま、首をすくめている。 怯えている様子が見てとれた。 もうすこし近くで写真を撮りたいのはやまやま。 でも、そのせいで余計なストレスを与えたくはない。 怖がらせたくもない。 距離をあけながら写真を撮り、 撮らせてくれてありがとうと思いながら、そこを離れる。 望遠レンズだったら、動物たちにストレスを与えることなく、 近場にいるような感覚で撮れるだろうか。 そろそろ、そういうカメラで彼らと接したくなってきた ・・・「その先」の世界で。 会いにいきたい子たちは、まだまだいっぱいいる。 充電してすこし元気になったココロが、また動きはじめた。 |
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